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愛を注いで
器。
コップのような、はたまたお椀のような。
人によって大きさも形も異なる、千差万別のそれ。
それに注がれる形の無いものが、心を満たしていく。

でも、私のものは、きっと、とても大きいか、ヒビが入っている。
だから、永遠にそこは満ちることがない。
母親も、父親も、祖父も祖母も友達も先生も彼も彼女も小鳥もパンダもなにもかも。
誰も私を満たせない。

それに気づいてしまってから、ますます私の心は深く暗く底が見えないものを造り出した。

それが満たされないのは、私が大きくなっても、誰かと抱き合ってみても変わらなかった。
むしろそれをしていく度に、ただでさえたまらない何かが減っていくような気がした。

街で幸せそうな家族やカップルを見ると自分でも呆れるほどの羨ましさと忌々しさを抱くようになったのは、その頃から。

そんなふうな感情を抱いてしまうくらいなら、無理してでも自分も「大切な人」とやらをつくってしまおうかと血迷ったのがそれから二年半ほど経った頃。

この思いが行き過ぎて、いつか自分が何かしでかすんじゃないか、人様に迷惑をかけるなら、それならいっそ、、、などと私らしくない考えを持ち始めたのが、それからさらに一年だった頃。

私らしくなく思い悩み、本当に当てはまる時があるのだと、いつかにならった「焦心苦慮」やら「艱難辛苦」やらを思い出したのがそれから半年たった頃。

最後にあなたと、なんていつか見たカップルの片方みたいな顔をしながら考えたのがそこから一ヶ月経った頃。

そんな無価値なことを考えたのは、椅子の上。

もっと早く出会えていたらなどとまた無価値なことを考えたのも、椅子の上。

妙に近い照明と天井に、ほこりやしみを見つけながら、少しだけ立ち止まったのが、そこから数十秒間。

自分のうつわが、今まで知らなかったあたたかなもので満たされていると。
それはあの人のおかげだと。
気づいたのは、一歩を踏み出したとき。



ずっと欲しかったのものがなんなのか。
わかっていたのは、きっと、ずっとずっと昔。

12/14/2024, 11:45:31 AM