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彼はいない。
それはつまり、俺もいないことを指す。
あいつらと食べたたい焼きの熱さも、袋いっぱいに詰め込まれたサラダ油の重さも、自転車で坂道を下る爽快感も、何一つ無いことになる。
「それは嫌だなあ」
「なに、いまさら」
彼はそう言って目の奥の深い深いところで俺を見つめた。
「さいしょから、そういう話でしょ」
駄々をこねる子供を宥めるような目を向けられて、少し嬉しかった。
「でも、ね」
きみが、まだっていうなら、止めないよ。
そう言って空を見上げた彼は、何を思っているんだろう。あの人のことでも思い浮かべているのだろうか。
俺はバカだから、よく分からない。
だけど、あいつらとはもっと一緒にいたいなあ。
そう呟くと、彼は俺を見て笑った。
「——いいよ」
その目の奥のほうに、僅かな揺らぎがあったのは、バカな俺の気のせいだったろうか。

4/28/2022, 2:13:50 PM