▶113.「君と見た虹」
112.「夜空を駆ける」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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〜人形たちの知らない物語〜
ノンバレッタ平原を抜け、小高い丘の上まで来た。
サボウム国が見渡せる場所だ。
拾ってくれた老夫婦以外では大した思い出のない国だが、
不思議と戻ってきたという感覚がある。
そのまま一息ついていると、
突然、視界が揺れ出した。
「あ、なんだ…じしん…?」
久しぶりすぎて自分が揺れているのかと思ったが、
しゃがんでいると地面から小さい揺れが伝わってくる。
こっちでは何と言うのだったか。
故郷の言葉しか出てこない。
長い揺れの中、遠くに目をやると、煙が上がっている場所があった。
それは、王城のある方角だった。
「あ」
煙の一部が虹色に光っている。
何かの粒子か水蒸気か、
太陽の光を分散させているのだろう。
冷静に現象を分析しようとする一方で、
____は急な郷愁に捕らわれていた。
あの頃は平和で、足りないものなんかなくて。
苦しさに、ぎゅっと服の胸元を握りしめた。
「君と見た虹は、もっとささやかで優しいものだったよな」
幼い頃、瓶に水をいっぱいに溜めて太陽に透かして見せてくれた。
それから、色んな場所に虹を当てて遊んだ。
高名な父がいるからと驕っていた私と親しく遊んでくれた女の子。
お互い成長してからは、
寝食を惜しんで人形づくりに没頭していた私を叱ってくれた恋人。
今は、あの虹よりも遠い。
煙は虹を飲み込んで、次第に大きく黒く変化し空を上っていく。
「行かなくては…」
力を振り絞って立ち上がり、丘を駆け下りていった。
サボウム国に入っていくと、あちらこちらで白い煙が上がっていた。
湯気にしては、変わった匂いがする。
布で口元を覆い、王城に向かって走って向かおうとしたが。
「術具が使えない!」
「こわいよー!」
あちこちで上がる悲鳴に見て見ぬふりも出来ず、
口元を覆って広い場所へ逃げるように声をかけていく。
恐怖に叫ぶ声の合間に、術具が使えないと焦っている声が多い。
揺れで壊れたというわけでもないようだ。
大きな物は持たずに避難するように呼び掛けながら、
人々の間を縫って進んでいく。
大通りを抜ける頃には揺れが収まって、
住民たちは少しばかり落ち着きを取り戻していた。
丘の上から見たとき、城とは反対方向の方が煙が少なかったように思う。
そう伝えると、そちらでは新首都を建設していると教えてくれた。
なるべく早くみんなで声を掛け合いながら避難した方がいいと念押しして、その場を離れた。
そうして着いた王城は、すでに人も少なく、がらんとしていた。
残っていた者に聞いてみると、
王を始めとする戦乱に積極的だった者たちが乱心して城を出ていくと、
それを知っていたかのようなタイミングで反抗組織が現れたという。
その者達は城内を掌握すると新首都建設のために人を引き抜いていったということだった。王子も一緒に連れていかれたらしい。
イレフスト国の王子と違って、サボウム国の王子は気弱な性格だからだろう。
つまり、人が少ないのは揺れの前からだったらしい。
(自分たちで作り上げたかったのだろうな)
仲間たちが、残った人達と上手くやっていくことを願うしかない。
「あなたも城を出て避難した方がいい」
「そうするよ、あっちには弟がいるんだ」
「あと1つだけすまない、王の墓はどこにあるだろうか」
2/23/2025, 9:43:57 AM