「先生〜!…っ、」
いつもの時間のいつもの準備室。いつもならこうやってドアを開けるだけで、先生が声をかけてくれるはずなのに。
とうの本人は丸つけの途中だったのか赤ペンを握りしめたまま夢の世界だ。
珍しいこんな気の抜けたような先生。
せっかくの機会だし写真の1枚でもとってやろう。
パシャ、と乾いた音が室内に響く。
どうか先生が起きませんように。そう祈りながら
「…風邪、ひいちゃいますよ」
誤魔化すように呟いた言葉は届いているだろうか。
伸ばした指先は先生にはやっぱり届かない。
あと1センチ、手を伸ばせたらな。
2023.12.1『距離』
12/1/2023, 10:38:29 AM