『 あめ 』
夏が来た。
夏休みももう少し。
いくら誘ってもうんと言わない君が、
珍しくいいよと言った時は驚いた。
プールへ行こうと思ったけれど、この時期は人が多いからやめておくことにした。
代わりに、海へ行くことにした。
潮の匂いがする海風。
近くでにゃーにゃーと鳴く海猫。
時折、蟹や宿借が動いているさまが見える。
君が揺れた。
君の周りを舞う花弁がとても綺麗で、
でもどこか寂しげで。
きっと今まで1度もこんな所へ来たことがないんだなと思った。
砂。真っ白でサラサラしている砂。
君がせっかくの花柄ワンピも気にせずに寝転ぶものだから、思わず私も寝転んだ。
すぐ隣。
君が話しかけてきた。
もし、私がいなくなったらどうする?って。
でも、その時私はたそがれていたものだから、聞き取れずにえ?と聴き返してしまった。
君は、少し、苦痛で歪んだような顔を見せた後、なんでもないよと言った。
そっかと素っ気なく返したのが間違いだったのか、君は立ち上がって何も言わずに帰ってしまった。
こんなことになるなら黄昏なきゃよかった。
君を、帰らせるつもりなんてなかったんだけどなぁ
今度会った時にまたなにかお詫びをしよう。
そんな暗く見苦しい気持ちとは裏腹に、
空は真っ青に光り輝き、雲ひとつなく綺麗で、
晴れやかで、君に似ていた。
ベランダから煙草を吸う。
良くないと分かりつつもやっぱり吸ってしまう。
あの時、なんて言うのが正解だったんだろう。
私はまた黄昏ながら考える。
ふと、ぽつぽつという音がしたから、空を見上げてみた。
雨が降っていた。
雨は私を包み込む。
今日はもう、君のことなんて忘れた振りをして早く眠りにつこうと思った。
これでもかというほどに君の髪色に憧れて染めてブリーチしてを繰り返した髪。
君のようなブロンドになりたくて、何度も何度もブリーチしたけれど結局すぐに黒髪へ戻ってしまう。
少しパサついた髪は私の気持ちのように黒く暗く。
そんな髪をきつく縛っている青色のゴムをほどいた
でも、なかなか外すのに手こずった。
どこかで絡まっているみたいだ。
まるで、私が君へ向ける気持ちのように。
むかついた。もう今日はこのまま寝ようと思った。
その次の日から、きみをみることはなくなった。
10/1/2024, 10:52:31 AM