ゆきやなぎ

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【文通:薫風の候】

透明な手紙の香り。
...…がする。

透明なので目に見えないが手紙は確かにこの手にある

手探りで封をあけ
(おそらく)便箋を
これまた手探りでひろげると
香りが一段とはっきりとした。

今回は新緑の風を思わせるような香りだ。

そろそろそんな季節なのですね
手紙に応えるように私はつぶやいた。

この手紙は届くと数日で存在がなくなり
暦の上で季節が変わると
次の手紙がどこからか舞い込む

そんな奇妙な季節の便りが
私に届く理由や送り主についての
心当たりは全くないし
透明なので手紙の内容も読めなくて、
もどかしさはあるけれど
でも、これは「手紙」でしかも「文通」していると
私は確かに感じている
(ちなみに変なヤツと思われそうなので
手紙のことは私と飼い猫だけの秘密だ)

ベランダに出て空を見上げる
少しスモッグがかかっているが
この頃にしては爽やかないい空だ

温暖化とか環境汚染とかなんとかで
季節の移ろいはますますあいまいになってきたが
それでもまだ何とか季節は巡っているのだな
良かった。良かった。

ふふん♪
飼い猫と空を見ながらにやけていると
珍しく新緑の薫るような爽やかな風が吹いた

「こちらも緑の季節になりました
いい季節になりましたね
お便りありがとう」

すかさずひとりごとのようにつぶやいて
私は手紙の返事を風に託した。
季節が巡ってまた手紙が届きますように
ささやかな、
でも大切な願いも込めて__

にゃっ…にゃっ…にゃっ…
猫が小さく鳴いた
飛んでいた鳥に反応しただけなのかもしれないし
猫も返事を託したのかもしれないし..…

お題:「透明な季節の香り。」から始まる小説や詩

4/23/2023, 8:42:04 AM