「……ここどこすか?」
旅でこの地方へ来たらしく、顔は都会らしく綺麗にケアされていたその女性は、ずっと眉間に皺を寄せて歩いていた。
可憐で美しいというより、友達のような距離感で接してくるものだから、こっちも話しやすい。田舎には都会に慣れなくて挙動不審になる奴が多いから。若い女性も少ないしね。
「とある場所ですね〜」
「近畿地方じゃないんだからやめてくださいそういうの」
「へへ」
「てかこんな田舎でも映画館とかあるんですか」
「実はあります」
道ゆく道を歩む。山は、登れる奴はいいけど普段登らない奴にとってはとても危険だ。海外じゃ山を走れる道もあるらしい。ようつべのショート動画で見たことがある。
マジで危険、ガチで危険。
犬とか散歩させてる人いた。その道路は山自転車専用道路だっつの。
「鬼霊の蝶を見たいんですけど、」
という理由で山に登った。のだが、「鬼霊の蝶」とは何だろう。鬼の霊と書いて「きれい」と読む。ふむ、わりといい響きだが完全に当て字だ。そもそもこの田舎で、きれいと読ませるほど綺麗な蝶には会ったことがない。多分迷信か噂だ。
「そんで、鬼霊の蝶ってどこで知ったんです?」
「テレビでやってました」
「ほーん、テレビかー、うちらはみんなテレビとか買わんお年寄りばっかなんであんま見れねんすよねー」
「……じゃあ何であなたは、この田舎に?」
「……」
「離れられないんすよ、みんなが死ぬまでは」
「……」
これも、一種の呪いというべきか。
自分には夫もおらず年下もいない。というかこの田舎はジジイとババアしかいねえ。だからここでは私が最年少かつ一番の若者なのだ。
高齢者が多いから、力仕事を手伝ったり、伝言係として走り回ったり、みんな優しいので、なるべく全員を看取ってから都会へ行くのが夢であった。
「……良い人なんですね」
「……鬼霊の蝶の噂は初耳やったけど、あんたなんでここに来たの?」
「……東京は多分私には合わないんです」
「……へえ、それはまた」
まあ確かに、私だって都会に行ったところで何かをしたいわけでもないし、とりあえずこの田舎で1人になったら大勢に囲まれようと思っていただけだった。
「あ、もうすぐ頂上なんで、頑張ってくださーい」
「ぎゃっ、虫やば」
「あんた蝶見たいんでしょ()」
2025.8.24.「見知らぬ街」
東京がどんなところか知らない田舎者パワー系姉ちゃんと東京暮らしもうやめたくてとりま鬼霊の蝶を探しに来たお姉さん。
田舎者姉ちゃん視点なので「見知らぬ街」で合ってます。
ね???
マジでこのアプリは書くと止まらなくなる。書きたい欲が溜まる。すごい。不思議。こわい。
8/24/2025, 10:26:54 AM