『星空の下で』
ふと目を覚ましたら、あたりには何もなかった。
どこまでも平原が続き、身を貫くような冷たい風が頬を撫でる。
「ぶえっくしゅん!!」
周りを見てみれば乱れたスーツと鞄が散らばっている。
そうか、俺はいま半裸状態なのか。
ちょっとまて。
なんで半裸状態なんだ。
俺は急いで服を着てここに至るまでに何があったのか思いだすことにした。
今日はたしか、そう、呑み会があったはずだ。
毎年恒例の新年会を行って、後輩を励まし、同期と語り、上司に接待し、いい感じに締めたはず。その後に二次会に行ったが、そこで呑みすぎたんだろう。
記憶があまりないから何かしらあって今に至ると。
いや、なんでだよ。
どうやったらこんな大自然で素っ裸で寝ることになるんだ。
というかここどこなんだ。
俺はスマホを開こうとしたが、悲惨なことにスマホの充電は切れていた。
そのうち道路が見えてくるかもしれないので、俺は草原を歩いてみることにした。
もう、ヤケクソだ。
足を一歩進める毎にしゃりしゃりと音が鳴る。
夏じゃなくてよかった。幸いにも虫が少ない。
風は相変わらず冷たく、どこまでも草原は続いている。
「久しぶりだな」
子供の頃は良くいえばお転婆、悪くいえば野生児だったから、よく野原を駆け回っていた。
あの昆虫はなんだ、この植物はなんだと騒いでいた記憶しかない。
対して今はどうだろうか。
…今もたいして変わらないな。自分が好きなことをやって来たつもりだし、そうじゃなかったらこんなところで素っ裸になっていない。
どこに行っても、何をやっても俺は俺だ。
多分。
「ーーおおー!」
ふと立ち止まって、上を見上げるとそこには満天の星が広がっていた。
気づいていなかったが、俺はこんな美しい星空の下で素っ裸になっていたらしい。
「あ、思い出した。」
そう言った時、まるでタイミングを測ったかのように星たちが降り始めた。
キラキラと、あるいはギラギラと星たちは動き始める。
ーー今日は流星群が来るらしい。
そんな話を聞いて二次会を飛び出して来たんだった。
…なんで裸だったのかはわからないが
「…すごいな」
俺は星たちが放射線を描いて流れていく様をただ茫然と見上げる。
その日は、最後の星が流れるまで、眺めつづけた。
そして翌日、俺は風邪をひいた。
4/5/2023, 10:57:51 PM