ゆま

Open App

 落ちる、落ちる、落ちていく。
 重力が私を包み込んで、勢いのまま引き摺り落とす。
 抗うこともできずただ、加速する空気に肌を切られて、果ての見えぬ世界の底へと吸い込まれていく。
 はじめは、やがて来たる終焉を恐れた。けれど、落ちるばかり。いつまで経っても果ては来ない。
 次第に落ちていることにが当たり前になって、刃のような風の音、凍える寒さに慣れていく。逆さまの世界が、私の生きる世界に変わっていく。
 ああ、落ちる前。私はどうやって生きてきたんだっけ?
 考えてももう、思い出せない。どのくらい落ちているのか、どのくらい時が経ったのか、全てが溶けて曖昧になっていく。
 落ちる、落ちる、落ちていく。
 果てへの恐怖はもうない。ただ、終わりの来ない永劫の落下が、まるで罰のように退屈だった。

【逆さま】

12/6/2023, 2:02:25 PM