夜の首都高は心を落ち着かせる。
君を隣に乗せて、湾岸線を羽田空港方面へ。
空港中央で降りて、第二ターミナルの前で君を降ろす。
「じゃあ、また来月、かな」
「あなたが福岡に帰ってきてくれれば、いつでも会えるけど」
「そうもいかないんだよ。分かってるだろ」
「分かってはないわよ。諦めてるだけ」
「分かってくれてんじゃん」
「…お母さんには何て言っとく?」
「そーだな。あいつはお国のために戦って星になった、とでも言ってくれ」
「やめなよ。言っていい冗談と悪いのがあるよ」
「お国のために頑張るのが悪いことなのか?」
「今はそういう時代じゃないでしょ。でもお母さんは…」
「分かった、分かったよ。次の正月には帰るって伝えといてくれ」
「出来るだけ、有言実行でお願いね」
「出来るだけ、な。ほら、飛行機の時間遅れるぞ」
君がターミナルに向かう後ろ姿を見送って、車をスタートさせ、夜の首都高を、さっきとは逆のルートで走らせる。
助手席に誰もいないことに、一抹の寂しさを感じながら。
誰が間違っている訳でもないのに、人生はうまくいかないことばかりだ。
会いたい人に会えなかったり、伝えたいことが伝わらなかったり。
遠く離れて暮らす、大切な人達。
それぞれの生活。それぞれの事情。
妻を乗せた飛行機は、今頃、南アルプス上空だろうか。
無事に向こうに到着して、子供達に父親の無事を伝えてもらいたい。
車窓に流れる東京の夜景は、何故か心を落ち着かせる。
きっと、その明かりの中に人々の暮らしを感じ取ることが出来るからだろう。
この街で日々を送り続けている人達の中には、きっと自分と同じように、大切な人と遠く離れて生活している人も少なくないはずだ。
どうやって孤独と闘っている?
私には、会えた時に出来るだけ軽口で返すくらいしか、この切なさを乗り越える術は思いつかない。
一人で住むアパートの部屋に帰って、私もひとつ、明かりを灯そう。
この東京の夜景に、彩りをひとつ加えるんだ。
それを見て、心に安らぎを感じてくれる人がいるかもしれない。
たとえ、今は家族と遠く離れて、会う度に別れの切なさを感じているとしても。
9/18/2024, 1:46:56 PM