ざざなみ

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『歌』

私は変わらない毎日に退屈を感じていた。平日は朝起きて学校に行き、友達と会話し、勉強をして一日を終える。休日は特に用事のない日は家から出ない。そんな日々に退屈を感じてストレスが溜まっていた。
そんな時だった。彼と出会ったのは。
私が少しでも気分を変えようと散歩をしていた時、どこからか歌が聞こえた。その歌声はとても綺麗で透き通るような声だった。私はその声が聞こえる方に行ってみるとそこには整った顔立ちをした青年が立っていた。私と同い年くらいだろうか。
その時、私の気配に気づいたのか彼が振り向いた。彼が振り向くと同時に歌うのを止めてしまったので私は彼に素敵な歌だったからもう一度歌って欲しいと頼んだ。
最初は驚いていたけれど、意外にも彼は快く頷いてくれた。彼の歌声を聞くと、自然と退屈だった日々がどうでも良く感じた。それと同時に私の日々のストレスも緩和されていく感じがした。
それから私は彼の歌声を聞くのが日課になっていた。彼も歌うのは好きらしく、私が来るといつも曲のリクエストを聞いてくる。彼は音楽に精通している人なのか私のリクエストする曲はほぼ知っていたのですごいと思わず感心してしまった。
でも、毎日彼を見ていて分かったことがある。
私は毎回彼の歌を聞いたあと素直にすごいと感じたことを褒めるけどその度に彼は頬を赤く染めながら、恥ずかしそうに笑うのだ。
私は褒められ慣れていないのかなと思ったけれど、彼は自分のことを何も話さないので私も別に根掘り葉掘り聞いたりしなかったし、私も色々聞かれたりするのは嫌な性分なのであんまり詮索しないことにした。
ただ、お互いに誰なのかが分からなくても不思議と恐怖を感じたりすることは無く、なんと言うか居心地が良かった。
彼の歌声を聞く時間が私は好きだ。
だから私はしばらくはこのままの関係でいたい。
歌で繋がっているこの不思議な関係のまま。

5/24/2025, 12:09:23 PM