ある日、俺の下に猛犬がやってきた。
猛犬とは言っても、比喩だ。来たのは、俺より20センチは背が高く、細身ながら無駄のない筋肉のついた大柄な体付きの男。
組織の中で誰も制御できず、半ば島流しのように、俺の部隊へ送られてきた。
俺達の部隊は、いわば終着地点。使えない、制御できないと判断された問題児達が集められた、どうしようもなく、けれど暴力的な強さを秘めた部隊。
元々爆弾のような部隊だ。今更猛犬の一匹や二匹増えたところで、何の変化もない。
今だって、先にこの部隊に送られていた問題児にちょっかいをかけられている。
「お、新入り〜?どっから飛ばされてきたの?罪状は?」
「……また増えんのかよ……使えねぇなら殺すからな。俺の邪魔すんな。」
よりによって、ウチの中でも特に面倒なのに絡まれているようだ。
組織の風俗を乱すとして送られてきた軟派な男と、誰にでも突っかかるのでどうしようもないと判断された男。別方向に面倒で、何故か2人一緒に居がちなのがまた面倒だ。
「……うるせー……来て早々説教かよ。つーか、こんな終わってる部隊派遣されるくらいならさっさとここ辞めりゃ良かったわ。」
既にバチバチと火花が散っている。いい加減、止めに入ったほうがいいだろう。
かつ、とわざと革靴の足音を鳴らして背後に歩み寄る。3人の喧騒がぴたりと止んで、三対の目がこちらを見つめた。
「あれ、たいちょーじゃん?何、新人の躾でもしに来た?」
その声を無視して、新入りの元へまた近寄る。
そして、全力で、壊しにかかるつもりで、拳を顔面に叩き込んだ。
「……うっっわ……分かってたけど……やっぱたいちょーえげつね〜……」
数メートル吹き飛んだ新人の腕を掴んで引き起こす。何が起きたか分かっていないようだったが、気絶はしていない。猛犬と言うだけあって、それなりに頑丈なようだ。
「いいか。これまでは叱るやつも居なかったんだろう。だが、ウチに来たからには徹底的に躾けてやる。お前だけ特別扱いは無しだ。」
かなり厳しく言ったつもりだった。だが、奴の反応は予想外だった。
どこか遠くを見つめて、恍惚としたような、心底嬉しいような気配を滲ませて、逆立っていた瞳の棘が消えた。
「……はい。」
穏やかな瞳は、新たな波乱を静かに広げていく。
俺は叱られて喜ぶ彼に若干引きつつ、黙ってとりあえず頷いておいた。
テーマ:安らかな瞳
3/15/2026, 8:16:27 AM