仮色

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【イルミネーション】

きらきらとした光の群衆に、思わずほう、と息をついた。
はいた息が白く変化して上に消えていって、忘れていた寒さを思い出させてくる。
思わず、首に巻いていたマフラーをきっちりと巻き直した。

「どう?綺麗っしょ」

隣で一緒に沢山の光を見ていた友達が、寒さで頬を赤くしながら問いかけてきた。この、人が居ない穴場を教えてくれたのは彼女だ。
うん、めちゃくちゃ、と素直に返すとにっこり笑顔になって、輝いている光達に顔を戻した。
こんなに寒いのにマフラーを巻いていないせいで、ゆるゆると緩んでいる顔が丸見えで。
そんな顔に、温かい気持ちになる。

体は寒いのに、心は温かくて。

「なんか、不思議な感じだね」

自分も知らぬ内に口から出てきていた言葉に、友達がそお?と返してくる。
うん、と答えると、それ以上は何も聞かれなかった。
光を前に、静かな時間がゆったりと過ぎていく。

「…寒いね」
「うん」
「帰るかぁ」

そんな素朴な会話で、私達はそこから動き出した。

また来ようね。
うん。
今度はもっと厚着しよ…。
それは本当にそう、風邪引くよ。

日常に戻った会話の中でも、私の心には綺麗なイルミネーションの光に照らされる友人の顔がちらついていた。

それも、あの心底幸せそうに緩んだ顔が、である。

12/15/2023, 9:54:27 AM