「お覚悟。」
「嗚呼。」
あなたの凛とした声は、静かに響き渡る。
和多志は今日、あなたに刃を向ける。
今迄、あなたから受けた恩を……和多志は仇で返してしまう。
和多志は……あなたを殺す。
唯一、あなたが望んだ願いを叶えるために。
初めて、あなたを殺すために剣を交える。
あなたの戦法は、知っている。
もう、何度も、何度も、叩き込まれた。
最初は守りに徹し、相手を油断させ、その隙を付く。
相手の集中の糸が切れた、その瞬間をあなたは必ず付いてくる。
単純だが、強力な戦法。
だが、短期決戦に持ち込まれれば、その戦法は崩れる。
和多志は、それを知っている。
だから、和多志は一直線にあなたの心臓を貫いた。
「見事なり。」
和多志の頬を水滴がつたい、急いであなたの、母上に駆け寄る。
「強く成ったな。」
「母上……。」
「ありがとう。わたしの願いを叶えてくれて。…人間に戻してくれて。」
「死なないで、くれ。」
嗚咽が止まらない。
「いやよ。」
嬉しそうに母上は、笑う。
「よく聴いて。失敗して良い、完璧で無くて良い、
万事最善を尽くし、例え短くとも、懸命に生きよ。」
最期の、最期まで凛々しく、穏やかな人だった。
「母上、和多志は……あなたに命を拾われ、
あなたの子として、生きられて、本当に幸せだった。」
1/30/2024, 5:22:33 PM