白眼野 りゅー

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【心の中の風景は世界なんかよりずっと綺麗】

 僕の心の中の景色は、君が言葉で表す景色。

「今日、庭につばめの巣ができてたよ。そのうち子供のつばめとか見られるのかなあ」
「暑すぎて逆にセミ見かけなくなっちゃった。今の子供ってセミ取りせずに育ってるんだねえ」
「やばい、公園のもみじめっちゃ綺麗。ここ数年で一番綺麗な赤色」

 君の言葉が通ったところから、僕の世界が色づいていく。

「初雪が降ってたよ! せっかくだから、雪だるま作ったの! 小さいやつだけどね」

 君の言葉が、弾む声だけが、僕が知る世界の景色。君が見た風景を、間接的に見せてもらうだけ。

 だから、僕の知っている世界はすごく綺麗で、直接見てみたいと思わされる。

「でもせっかくなら、君と一緒に作りたかったなあ。そしたら、もっと大きいのが作れた」
「……その手には乗らないよ」

 久々に声を出した。内容は否定なのに、どうしてか君は嬉しそう。

 知ってるよ。雪はただ綺麗なだけじゃなくて、冷たいし重いし、靴で踏まれたそばから茶色く汚れていく。雪だるまだって、すぐに溶けてどこが顔だったかもわからなくなる。

 世界なんて、フィルター越しに見るので十分。だって僕は、世界の汚さに嫌気がさしたから、この部屋から出ないことを選んだんだ。

「世界のいいところを宣伝して、僕を部屋から出そうって魂胆でしょ?」
「バレてたかあ……。でも、今日の雪は本当にいい積もり具合で……」
「はいはい」

 僕がこうしている限り、君の口から飛び出す世界はきっと綺麗なまんまでしょ?

8/30/2025, 1:44:52 AM