夜も深まった頃、硬いベットで私はバイクの喧しいエンジン音をぼうっと聴いていた。この閑静な住宅街で走り屋なぞよくやるものだ。何が楽しいのかわからないが、わかりたくもない。
ごろり、と寝返りをうち、部屋の壁を見つめる。
「……。」
エンジンの音は過ぎ去り、再び静けさが訪れる。それでも私は眠れなかった。
別に、直前までスマホを見ていたとか、コーヒーを飲んだとか、お昼寝をしたわけでもない。不眠症などでもない、一般的に健康な成人女性だ。
ふぅ、とため息を吐く。
眠れないのは、将来の不安だろうか、仕事や勉強が億劫だからだろうか。或いは、恋煩いか。
最近越してきたお隣さんが殊更美丈夫で、歳も案外私と変わりなさそうで気なっているというのはある。生々しい話だが、この壁の薄いアパートで情事の声が聞こえないところを見ると恋人はいないように思う。
ベタだが、わざと手料理を多めに作っておすそ分けでもしようか。家庭的な女アピールだ。いや、いきなりそれは気味悪がられるか……?などと自問自答する。
そういえば、今日の夕食――正確には日付を跨いでいるので昨日だが――は、カレーを作った。私は具材で鍋をいっぱいにして作るのが好きなため、まだ残っている。
そこまで考えて、ああ、思い出さなければよかったと後悔した。
――腹の虫が盛大に鳴る。
「今から食べたら太るよねぇ……」
眠れない理由は明白だ。絶賛ダイエット中な私は、お腹が空いて眠れないのだ。
「春雨スープならセーフかな、うん」
とひとりごち、ベットから勢いよく降りキッチンへ向かう。
結局、残りのカレーも食べてしまったことは記憶の彼方に葬り去った。
12/6/2023, 9:12:15 AM