Yushiki

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 亡くなった祖母の家を掃除していたら、古びた引き出しの中から一冊の日記帳が出てきた。開いてみようと思ったら、日記帳には小さな錠がついている。けれど、肝心の鍵はどこにも見当たらない。

 たぶん鍵は無くしたんじゃないかしら。母さん、前にそんなこと言ってたし。一緒に掃除を手伝っていた母親がそう呟いた。

 なんだ、どうしたと、二階を整理していた父親と伯父がやって来る。祖母の日記帳を確認した途端、おふくろこんなのつけてたんだなぁと、伯父が感慨深そうに息を吐いた。

 祖母は自分からはあまり話をしない穏やかな人だったけれど、そんな人が記していた日記には一体どんなことが書いてあるんだろう。日記の中だけでは実はすごいお喋りとかだったら、ちょっと楽しい。

 ねぇ、みんなして何やってるの? と後ろから声がした。庭で遊んでいた伯父の娘とその相手をしていた弟が、いつの間にか部屋の入口前に、不思議そうに首を傾げて立っている。

 ほら、これと、私が二人の子供達にも見えるように掲げれば、何それ、何それと、興味津々な様子で近付いてくる。

 黙したままの日記帳を皆で囲む。祖母がどんな心情を隠していたのかは未だ謎のままだが、それでもその日記帳は今だけはきっと微笑んでいるんじゃないかなと思う。



【閉ざされた日記】

1/18/2023, 11:14:01 PM