セイ

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【これまでずっと】

囚われの館。
それは「己の罪」を思い出すために建てられた館。
生と死の狭間に迷い込んだ魂だけが行き着くことができる場所で、「己の罪」を思い出せぬ魂が囚われている。
僕も、その1人。

僕はこれまでずっと「罪」というものに向き合ってこなかった。
ココに来て初めて「己の罪」は何なのかを問われたが、僕は他の利用者と同様で答えることができなかった。
…でも、本当は自分の罪なんてすぐに思い出していた。
だけど分からないフリをして何となくダラダラと館で過ごす日々。
昼間は部屋で読書や物思いにふけり、夜はバーで他の利用者と交流がてら何杯か飲んだりするのがルーティンになっていた。

そんな生活を繰り返していたある日。
館内で僕は「彼」と出会ってしまった。
僕の罪に深く関係している「彼」は館で従業員として働いていた。
館の支配人に聞けば、僕がココに来る1週間程前に来て働き始めたのだとか。
…ちょうど、僕が「彼」に酷いことをしてしまった日と重なる。

僕は「彼」を殺した。
人気の少ない夜の駅のホーム。電車が迫っている所に「彼」の背中をトンッと押した。
「彼」はそのまま線路に落ち、電車に轢かれた。即死、だった。
「彼」を突き落としてから1週間、僕は罪悪感でまともに眠れずにいた。
そして僕は「罪」から逃げるため、それなりの速度で走っていたトラックの前に飛び込んで…。

「彼」は僕のことを覚えていなかった。
というより、「彼」は自分を確立する「内面」にしか興味が無いように感じられた。
ココでの「彼」は「己の罪」が何なのかを知ろうとせず、自分は何者なのか。
それだけに執着しているように見える。
僕が言うのもなんだが、「彼」は普通の人よりズレているのだ。

支配人に「己の罪」を告白し、罪から解放された僕は逃げるように館を出た。
支配人曰く、僕の行き先はどうやら現世らしい。
トラックに轢かれて大怪我ではあるものの、まだ生きてはいるとのこと。

僕は罪に向き合った事で館を出れた。
だけど、「彼」は罪を知ろうとすらしていないからずっとあの館に囚われるのだろう。
果たして、「彼」が変われる時は来るのだろうか。

僕はこれからもずっと、「彼」という名の罪に囚われながら生きる。
それが、罪を犯した者の罰なのだから。

7/13/2024, 6:14:03 AM