"君の目を見つめると"
「大我」
名前を呼び、目を合わせ、髪を撫でるように指で梳く。
恥ずかしさからだろう。始めは強ばらせるが、数十秒ほど見つめていると、いつも強気で鋭い目が、とろり、と解ける。
そして、ゆっくり瞼を閉じる。
了承の合図だ。
一連の表情があどけなく、可愛い。
可愛さを噛み締めながら顔を近づけて、小さく薄い唇にゆっくり口付ける。
綺麗だな、と長い睫毛を見ていると、ゆっくり瞼が開かれ、また目が合う。
綺麗に澄む大きな目に、自身の目が映る。
目の奥は何かを欲している。
顔を離して親指で柔らかな唇を、ふにふに、と触って囁くように優しく尋ねる。
「行くか?」
「……ん」
何処か、など聞かずに頷く。
ほんのり赤く色付く頬が、白い肌に良く映える。声も、少し熱を帯びた声色になっている。
本当に可愛い。
キスの度に、この幼さに自身より五つ歳上だという事を忘れてしまう。
緩慢な動きで身を翻すと、袖口を申し訳程度に摘んできた。
今回も我慢できるのか否か、いつも自身の理性との戦いだ。
「みゃあん」
いつの間にか足元に来ていた子猫──ハナがこちらを見上げて鳴いてきた。『何処に行くの?』といったところだろうか。
大我の背に腕を回し、腰を抱いて目配せをする。
済まない、またお前のご主人様を独り占めさせてもらう。
俺の意図を汲んだのか、ハナは緩慢に翻して診察室に入っていった。
「お前、猫相手に牽制すんなよ……」
恥ずかしそうに声を潜めながら指摘する。
「つい、な」
それより、と、男性にしては細すぎる上に、肌が白く時折儚げな雰囲気を纏うせいで、少しでも力を入れてしまえば簡単に折れてしまいそうな身体。腰に回している手に、そぉ、っと力を入れる。
ぴくり、と身体が小さく跳ねる。
袖口を摘んでいた手を離し、俺の腕に自分の腕を絡ませる。
ちらり、と大我の顔を見る。
同じタイミングで大我もこちらに視線を向ける。
その目は『早く行こう』と言っているように感じた。
ぐ、と自身の喉から、息を詰まらせたような小さな音が鳴る。
果たして俺は無事理性を保ち、明日に響かぬよう自身をセーブできるのか。
4/6/2024, 1:17:39 PM