はた織

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 自分にとって美味しいものは、身体に馴染みやすい。自身の体温に溶けていく、ちょうどいい温かさと柔らかさが好ましい。舌の上に置いて、口内や上顎、歯にも溶けて馴染んで、それこそ自分の身体の一部となるような相性の良い食べ物は美味である。
 そんな美味なるものの食感を表現するなら、ほどける糸だ。固体または液体だったものを口内に含んで噛み締めた時に、私の身体になる糸が現れる。
 しゅるりと歯の隙間から漏れ、舌の上に転がり、上顎をくすぐらせて、頬の裏側を撫でていき、喉の奥へと伸びていく。胃の中に落ちれば、いくつものの糸は花開くように広がっていく。およそ半年もかけて、糸を伸ばしていき、私の内臓を包んで馴染んで溶けて消えていく。
 注がれた酒の流れを紐の如きと詠んだ俳人がいたが、読んで字の如く、美味しいものは案外、糸や紐に近いのかもしれない。
                    (250618 糸)

6/18/2025, 12:51:27 PM