ハイル

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【君からのLINE】

 なんだかそわそわして、スマホで何度も時間を確認する。
 二一時〇五分。まだLINEを送ってから五分も経っていない。
 僕は落胆した。たったの五分しか過ぎていないだなんて。僕は、密かに思いを寄せている彼女からの返信がくるまで、こんなにも落ち着かない気持ちで過ごさなければならないらしい。
 思い人とのやり取りとは不思議なもので、あんなにも練りに練って修正を加えた文章を送ったとしてもその数秒後には、いやあちらのほうが良かったか、いやそれでは馴れ馴れしすぎるか、と修正案が次々に浮かび上がる。ただの友人であればこんなこと思いもしないというのに、恋というのは不思議なものである。
 なかなか気持ちが逸ったままなので、僕は彼女とのLINEのやり取りを見返す。

『おはよう! 今日も学校頑張ろうね〜』
『部活おつかれ! 窓からみえたよ〜! シュートとかなんかすごかった!笑』
『塾がんばる!笑』

 傍から見たら他愛もない会話だが、僕にとっては一つ一つ大切な思い出だ。
 なんだか自分が意気地なしのように思えてしまうが、学校で声を掛けようにも彼女は仲の良い女子たちと会話しているし、自分の友人からからかわれるのも少し億劫だ……とつらつら並べてみたが、どれも言い訳にすぎないような気もする。
 僕は自分が意気地なしであることを一人で勝手に認めながら、先ほど送ったばかりのLINEを見返そうとした、その時--

『塾終わった! その映画私も気になってた〜!笑 今週末行けそうだけどどう?』

「うわぁっ!」

 突然の返信に驚き情けない声が出る。どくどくと心臓が早まり、顔がみるみる熱くなるのを感じる。ふるえだした手でスマホを掴み画面を確認した。
 彼女から続けざまにLINEがくる。

『既読はや!笑』

 もうなにもかも投げ捨てたくなった。すさまじい羞恥心に苛まれたが、それに勝るほどの喜びが後から押し寄せる。
 デート、OK貰えたんだ!
 僕は内側から溢れ出す喜悦を必死に押さえ込み、画面に目を向ける。
 ……まずはどう返そうか。話はそこからだった。

9/15/2023, 12:51:55 PM