作家志望の高校生

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「――じゃあ……ばいばい。」
夜桜の桜吹雪に掻き消されるように、もう二度と聞くことはないローファーの足音一つを残して彼は電車に乗り込んだ。
取り柄は、校門前の桜坂。あとは何もない学校だった。
成績は下の上、治安は下の中。毎日喧嘩は絶えないけれど、抗争という程でもない。
そんな、微妙な学校だ。先生も生徒も、どこかやる気が抜けた無気力さを孕んだ空気を纏っていた。
そんな、何の思い入れもない学校。そこを、今日卒業した。
クラスメイトは、専門と就職を合わせて大体4分の3、残りは進学。俺は多数側だった。
こんな底辺とも呼べる学校にいるのに進学を志す奴はそういない。だが、全くいないわけでもない。
数少ない真面目側に、俺の元親友がいた。
元、というのは、中学生の時に俺が半グレのような奴らとつるむようになってから疎遠になったせいである。
元々、真面目な奴だった。
課題はいつも期日より前に提出、テストも計画的な学習によって常に上位。
そんな彼がこんな学校にいるのも、ひとえに俺のせいだった。
アイツと俺は、仲がよかった。良すぎた。
俺が半グレ共とつるんでいた期間、奴らは何か、社会的に見てまずいことをしでかしたらしい。
未成年飲酒、喫煙。虐め、恫喝、深夜の暴走。挙げ句の果てに、闇バイト。
俺はそんなの全く知らなかった。けれど、そんな奴らと縁があったのは間違いなかった。俺が疑われたのは当然だ。
ただ、ここで問題だったのは、アイツまで疑いの目が向けられたことだ。
俺と仲がいい。その俺が、非行行為に及んでいる可能性がある。
元々推薦で進学校への進学が決まっていたのに、そのせいで取り消しになった。
時期はもう遅くて、桜はとうに散り始めていたと思う。
結局、枠の余っていて編入が容易な底辺校に入らざるを得なかった。俺のせいだ。
そんな学校での、汚くてつまらない3年が終わった。
俺と彼の間の関係は微妙なままで、あの日の溝は埋まることはなかった。
卒業式だった今日、俺は彼を連れて街を適当に出歩いた。
何となく、そうしたかった。
別れは案外あっけなくて、彼が電車に乗り込んだらそれきり。またね、とはお互い言わなかった。
こんな学校で高校生活を送ったのに、彼は元々目指していた大学に進学したらしい。
何もなくなった駅のホームで、白く儚い桜の花弁が、まだ冷たい夜闇に、何枚も何枚も呑まれていった。

テーマ:過ぎ去った日々

3/10/2026, 8:38:33 AM