Darling.love&piece

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#傘の仲の秘密

ぼくは、鈴木 拓也。売れない歌人だ。短歌を書いているだけの男。でも、そんなぼくにも趣味がある。
それは、「花」を買いに行くことだ。むしろいつも買いに行っていると言っても過言ではないだろう。
今、君はおかしな人だと思ったね。まあ、否定はできない。でも、よく考えると、花って素敵なんだよ。
だって、花って……おっと、またこの話をするところだった。長くなるから、話さないことにしているんだ。
でも、どうしても聞きたいっていうのなら、話してもいいよ。え?何?「聞きたくない」?言うと思ったよ。
大丈夫。今日ぼくが話したいのは、そのことじゃないんだ。本当に話したいのは、恋の話。甘い、恋の話だよ。
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ぼくは今日も花屋に来る。ドアを開けた瞬間、ふわっと花の香りがする。この瞬間さえ、僕にとっては宝物だ。
今日は何を買おうかな…シャクヤク?アジサイ?テッセン?…うーん、悩む。定番のアジサイにしようか。
「店員さん。アジサイ、買います。」「今日もいらっしゃったんですね。アジサイ、きれいですよね。」
この店員さんは、ぼくと同い年くらいで、この花屋の常連であるぼくは、よく顔を合わせる。
「何色になさいますか?」「ピ、ピンクと白で!」
ぼくは今日、ただ花を買いに来ただけではない。「ピンクと白」のアジサイを買いに来たのだ。
「はい。1500円になります。」「あ、はい。」
お金を渡すと、店員さんはニコっと笑って、「また来てください」とレシートをくれた。
でも、ぼくはドアに向かうことはなく、店員さんに花を渡した。
「こ、これ!受け取ってください!「ピンクや白の紫陽花の花言葉、知ってますよね…!」
店員さんの顔がみるみるうちに赤くなる。
「『愛情』です。一途で強い『愛情』。ひと目見たときから、あなたのことが好きだったんです…!」
おそるおそる店員さんの顔を見ると。
「嬉しい!私も好きだったんです!もちろん受け取ります!」
彼女の顔は真夏の太陽よりも眩しかった。

そんな彼女と歩いているところを想像すると、一つの短歌が頭によぎった。

“傘の下 僕の右肩 びしょ濡れに 左で君が 微笑んでいる”
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これが、僕の恋の話。君の話も教えてよ。どうせ、すてきな恋の話、知ってるんでしょ?

6/3/2025, 8:17:56 AM