始まりはいつも
私は至って温厚な人間だが、人間である以上、怒髪が天を貫くこともある。コンビニ弁当の底が富士山のように隆起していたり、自転車のサドルがブロッコリーに変化していたりすれば、否が応でも負の感情が蓄積する。溜まりに溜まった負感情は、時としてほんの些細なことで破裂してしまう。それが人間というものだろう。
「頼んでもないのに、私に勧めてくるなぁぁぁ!」
あなたへのおすすめ、の文字に髪を振り回す。表示されている商品はどこからどう見ても興味がない。無味無臭。上司が乗っていた車の話ぐらい興味がない。みんなチェックするんだからお前も欲しいんだろ、というAIの驕り高ぶった思考が腹立たしい。
これだからネットショッピングもSNSもユーチューブも嫌いなんだ。次から次へと無駄なものを勧めてくるから余計な時間を食う。トレンドも他ユーザーも、どうだっていい。知りたいことだけ教えやがれこんにゃろぉ。
「商売だからねぇ。仕方ないよ」
彼が諭すので噛み付いてやる。
「いいや、言語道断じゃ! ゆるすまじ」
「じゃあ聞くけど、君の好きな音楽ユニット、どこで知ったの?」
「……うっ」
「いつも観てるユーチューバーは? この前買ったグッツのアイドルは? 最近、ヨガ始めたよね?」
「……全部、おすすめ動画です」
「だよね。じゃあなんて言うの?」
私は深くこうべを垂れた。
「イツモオセワニナッテオリマス」
10/20/2024, 1:50:01 PM