縋りつくなんて真似、みっともなくてできないと思っていた。
好意という感情に振り回されて自制を失うなど、愚か者のすることだとも思っていた。
違う。
自分がそんな情動に呑まれてしまうのが怖かっただけだ。
ずっと恐れを抱いていた感情は、身を任せてみれば存外甘美で心地よく、しかし同時に底無しの沼に足を取られたかのように際限がなく。
こんな気持ちをあなたに知られたら、重い奴だと忌避されないだろうか。潰しはしないだろうか。去っていかないだろうか。
そんな新たな恐れを抱きながら、それを決して悟らせまいと、あなたの手に自分の手をそっと重ねる。感情に蓋を被せるような慎重さで乗せた掌の隙間から、それでもほんの僅かにどろりと漏れた情念が、か細い掠れた音となって唇からこぼれた。
「どこにもいかないで」
6/23/2025, 6:13:05 AM