海月 時

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「一緒に逃げよう!」
彼は、僕を闇の中から救ってくれたんだ。

『ここは…?』
目が覚めると僕は、天国に居た。眩い光、鮮やかな花、空飛ぶ天使。絵に描いたような楽園だった。
『どうして、ここに?』
次第に戻って来る記憶。僕が死ぬ直前、横に居た幼馴染。僕は思い出した。何故僕が、ここに居るのかを。

生前の僕は、死に急いでいた。両親からの暴力から、逃げるために。そんな僕は、よく幼馴染の彼に愚痴っていた。そして、気持ちが溢れすぎてしまった時、彼は
「一緒に逃げるよう!」
そう言って、一緒に死んでくれたんだ。あの瞬間、僕は僕を殺そうとする世界から逃れた。彼は僕の英雄になった。

それなのに、僕の横には誰も居ない。何故?彼はどこに行ってしまったのか。理由は、少ししてから分かった。彼は今、地獄で裁判を受けているようだ。

『貴様は、友人を死へと誘った。これは、許されぬ事だ。よって、貴様は悪魔として永遠を過ごす事を命じる。』
僕が裁判所に辿り着いた頃には、彼は生前とは懸け離れた姿をしていた。僕の英雄は、悪魔へと変わってしまった。彼は、僕を見つけるなり、涙を流した。
『ごめん。俺のエゴのせいで、お前は死んじまった。』
彼は何度も謝った。僕はその姿を見て、自分の中にある憎悪を知った。
『謝るなよ。僕だよ。君を殺したのは僕なんだよ!』
僕は、彼を抱きしめた。そして、泣いた。僕らの背中に生えていた羽は、白と黒が混ざり、灰色になっていった。

結局、僕らは天国にも地獄にも居場所をなくした。そんな僕らに、神様が住処をくれた。天国と地獄の狭間。朝も夜も訪れない場所。どこまでも不完全な僕らには丁度良い場所だ。

僕らは、光と闇の狭間で、また笑い合った。

12/2/2024, 2:05:07 PM