「まって!」
呼び止められて、私は振り返る。
追いかけてきたそいつは肩で息をしながら、真剣な眼差しを向けてくる。
もう今更何を言われても響かないと思うけど、一応聞いてあげようと、そいつに向き直った。
「ま……って、いいよね……」
――?
何を言っているんだ。
「『ま』って、いい響きだよね。満月、舞、真心、ママ……『ま』から始まる言葉は、綺麗なものがたくさんだ」
マジで何を言っているんだ。
さすがに意味がわからなすぎてゾッとした。特にママとか。
「だから、マミ! そんな言葉から始まる君も、とっても素敵ってことだ! どうか僕と、マリー・ミー……」
『ま』を使いたかったのかもしれないが、プロポーズで「マリー・ミー」って。というか、僕とミーで被ってるし。
それ以前になんだこのプロポーズは。
「マジで無理。間に合ってます」
手を降ってその場を去る。
こんなだから無理だと思ったし、何を言われても響かないんだよ。
また会うこともないでしょうけど。まぁ、元気でね。
『まって』
5/18/2025, 9:26:52 PM