いろ

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【不完全な僕】

 文武両道の優等生、あらゆる財と幸運に恵まれた御曹司。そんな無責任な賞賛の声に笑顔で応える。彼らが僕に完全無欠の幻想を見るのなら、それをわざわざ否定する必要もない。むしろその評価を利用してしまうほうが、僕にとっては都合が良いのだから。
「なーんて自分に言い聞かせてないと不安に押し潰されそうな君の本性、もっと人に見せてみても良いんじゃない? 案外親しみやすいってウケるかも」
 生徒会室の奥、休憩用に入れられた小さなソファに思いきり体を預ける僕に対して、テキパキと書類を棚へ片付けながら君は笑う。そんなことを言われたって、こればかりは染みついた性分だ。今さら変えられるわけがない。
 天井をぼんやりと見つめる僕の視界に、君の手が降ってくる。突然訪れた暗闇が張り詰めた神経に心地良い。
「まあそうやって私の前でだけ気が抜ける君も可愛いから、私は別に今のままで良いんだけどね」
 軽やかに弾む君の声が、僕の鼓膜を優しく震わせる。どうしようもなく不完全な僕を、君が知っていてくれるから。だから僕は有象無象の『大衆』の前では完璧な僕を演じ続けられるんだ。
 僕を甘やかす君の存在に溺れるように、静かに瞳を閉じた。

8/31/2023, 10:30:17 PM