ちいさな温泉旅館の一室で、わたしはきょう撮った写真を眺めていた。
早咲きの桜を見て、河原を散歩した。
途中の屋台で団子を食べた。
外国人の観光客に頼まれて写真を撮ってあげた。
「たのしかったな…」
誰にともなくつぶやいて、わたしは布団に倒れ込む。
旅館ならではの羽毛布団のつめたさが体につたう。
「きょう」はここに詰まっている。
スマホのカメラアプリの中にぜんぶある。
わたしはごろんと仰向けになって、もう一度写真の中のきょうを見た。
…でもわたしはもう、きょうの桜の匂いを嗅げない。川のせせらぎも聞こえなければ、同じ焼き加減の団子も食べられない…。
きょうを簡単に手元に残せるこの時代だからこそ、「きょう」の特別さが分かった気がした。
【今日にさよなら】
2/18/2024, 11:26:53 AM