詩『10キロの契約』
(裏テーマ・カラフル)
今日は少ないバイト代から奮発してピンク色のカーネーションの花を1輪とぼた餅を1個買った。
5月2日。母の命日だ。
あれからもう一年が立った。
ゴールデンウィークが始まる前に一周忌の法要は一人ですました。そう、いつも私たち母娘は二人きりでした。父も祖父母も親戚もいない。その理由を母は絶対に話さなかった。
子供の頃は知りたかったけれど母の態度を見てると知らない方がいいんだと思うようになっていた。
母は脳出血であっけなく死んだ。
何か私に言い残すこともあったかもしれないのに、一度も目覚めることもなく死んだ。
命日の今日は仕事も休んで、墓がないのでアパートに置いてる母の遺骨にカーネーションとぼた餅をお供えして、やはり母の好きだった韓国ドラマを一緒に観ようと思っていた。
ぼた餅を買った商店街からアパートまでの帰宅途中に1箇所長い階段がある。そこの上に来た時に急に背中を押された。
「きゃっ!」
私の目の前にいたコワモテのおじさんを反射的にすがるように押してしまった。すると勢いよく転倒してコロコロ転がり階段の下まで転げ落ちた。
「すみませーん」
私の背後からおじいさんの声がする。たぶん私を押した人物だが背は低く優しそうな人だった。転がり落ちたおじさんは血だらけで死んだと思ったがすぐに立ち上がり、こちらに向かって手招きしていた。
三人で近くの喫茶店にはいった。
おじさんには病院に行くように勧めたがとりあえず話し合いをしたいと言われたのだ。
そのおじさんだがヤクザだとわかる。その気配がぷんぷんなのでたぶん私の人生が終わると思った。このまま借金地獄で風俗で働くことになるんだと思っていた。警察に逃げ込むことも考えたり頭は混乱していた。
「姉ちゃん、俺は怪我したから、俺の仕事をあんたがしてくれないか?」
いきなりの訳の分からない話で目をパチパチさせていると、
「俺はヤクザでも暴力団でもない。ただの何でも屋だ。ただな、そこに変な仕事がきたんだ。1億円の現金をぜんぶ使って欲しいって言うんだ。詳しくは言えねぇが身元は確かめたし犯罪の金でもない」
そばにいたおじいさんが口を開いた。
「だったらどこかの施設に寄付すればいい」
すると、
「あははは、俺も寄付や馬券でって思ったがそれは駄目だって言うんだ。条件は県外を旅しながら旅の宿泊費や食費や観光の必要経費に限るって言うんだ。その旅の写真と感想を定期的にメールで依頼者に送る約束だ」
このあと、おじさんは病院に行き、よく普通に歩いていたと驚くほどあちこち骨折していた。
母の命日に起こった変な話し。
いろんな人の思惑や思いや悪意も交錯するのですが、今は話せません。
でも、貧乏な生活しか知らない私には別世界の旅になりました。それまでの人生がまるで無色透明だっように感じます。お金の魅力に気づいてしまったのかもしれません。すべてがカラフルにみえるなんて、旅を終えたあとが怖くなります。
ちなみに1億円は10キロの重さです。
その現金を持っての旅でトラブル?はいっぱいあります。
それから、気付いている方もいるでしょう。
私はずっと後で知りますが、階段の上で私を押した老人が依頼者です。
そして、すべては私の相続に関する問題が絡んできます。
また、お話できる日まで。
5/1/2024, 2:10:46 PM