望月

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《鳥かご》

 祐希と怜斗はいつも二人だった。
 母親同士が高校生の頃からの親友とあって、同じ病院で一日違いで産まれた二人は産まれる前から一緒だった。
 幼馴染というより、殆ど家族に近かったのもそれが理由だろう。
 人見知りの怜斗が輪に入れず寂しい思いをしないようにと、祐希が傍から離れなかった為でもある。
 誰にでも優しく穏やかな態度を取り、老若男女問わず好かれる祐希は友達が多い。
 人見知りなうえ口数も少ない方で、初対面の人など緊張して上手く言葉も紡げなくなる怜斗は友達がそう多くはなかった。
 本来であれば、幼稚園、小学校、中学校で友達の一人もできなかったのではないか。
 怜斗がそう思うのは、一重に祐希が傍にい続けてくれたからだ。
 誰からも好かれる祐希と仲が良いからこそ、他のクラスメイトも怜斗に話し掛けやすくなっているのだろうと。
 一人であれば、きっと、もう少し静かな学校生活になっていたのではないかと。
 そうして、高校生活までもを共にできると知ったのは一ヶ月前の話だ。
 二人はまた、クラスメートとして新生活を開けたのだった。
 いつものように、怜斗は祐希の家のドア前で彼を待つ。
 今日は起きるのが遅かったのか、隣の部屋からは慌ただしい音がしていた。
 当然、祐希がドアを開けて出てくるのもいつもより少し遅い。
「待たせてごめん! おはよう、怜斗」
「気にしてない。……祐希、おはよう」
「あっ、そうだ! 今日あるらしい数学の小テストの勉強ってやった?」
「うん」
「どう、難しかった?」
「そこまで。祐希なら余裕」
「なんだよそれ〜! でもまぁ、怜斗がそう言うならそうなんだろうね」
 家は変わらず隣同士、適当に会話を続けながら徒歩十分のところにある最寄りの駅へ向かう。
 毎日顔を合わせていて話すことはなくならないのか、と母親から聞かれたことがある。
 話すことがなくても、祐希となら無言の時間すら心地良いから問題ない。
 そう答えた時、呆れているのかわからない笑い声を返された。
「祐希」
「ん? どした、怜斗」
「いや、なんでもない」
「……そっかー。なんかあったらいつでもなんでも言ってね!」
 無邪気に笑う祐希に、怜斗の心は苦しくなる。
 果たして祐希と怜斗の心は、同じなのだろうか。
 そう疑問に思っても、祐希に聞くことなどできない。
 違っていたとき、どうすればいいのかわからないだろうから。
 この友情の先を、まだ、見たくないのだ。
 かけがえのない唯一と言っていいだろう友達を、心友を、親友を、幼馴染と離れるなど考えたくもない。

          ***

 いつも静かで、隣にいることが心地好い。
 冷静に物事を捉えられて、誰よりも先を見ている。
 冷たい印象を受ける彼の瞳が、嬉しそうに、楽しそうに細められると心が踊る。
 白くキレイな彼の手はややひんやりとしていて、意外と骨張った大きな手で驚く。
 落ち着いた声が、心を蕩けさせる。
 数センチ高い彼の膝に乗ったときは、いつもより至近距離で見つめられて心が早鐘を打った。
 時折一緒になってふざけて、時折縋るように甘えて、時折泣き虫になって。
 堪らなく愛おしくて、大好きで、かっこいい。
 それでいて、誰よりもかわいい大切なトモダチ。
「唯一無二の存在」
 それが祐希にとっての、怜斗だった。
 だから、これでいい。
 物心着いたときから傍にいてくれたから、怜斗は祐希の一部のような存在なのだ。
 幼稚園では常に二人きりで、殆ど誰かと関わりを持つことがなかった。
 小学校や中学校では、クラスが違っても毎日顔を合わせて話すことも容易だった。
 高校の志望校を合わせることも、祐希にはわけなかった。
 同じクラスになって、運命だと信じた。
 そうして、強く想うようになった。
 これからもずっと、怜斗と二人きりがいい。
 祐希は二人ぼっちの、カゴの中を望んでいる。
 それが一方的なものであっても、優しい彼のことだ、最後には必ず赦してくれるだろうから。
 

7/26/2024, 10:17:23 AM