→短編・軽やかな憎しみ
あなたは何も言わずに私に先立って汽車に乗り、私のスーツケースを荷物置きに押し込んだ。
「外から見送るよ」
「えぇ」
私の顔は強張ったままだ。今になって、物わかりの良いフリ?
あなたの真意が分からない。下手をして機嫌を損ねたりしたら、どんな制裁が待ち構えているか分かったものではない。
しかしあなたは項垂れて、身構える私の横を通り過ぎて行った。
窓を挟んであなたと私。
汽車に乗る私は高い場所からあなたを見下ろす。そのことが私を安心させ、私は汽車のガラス窓を開けた。
「北の地では、いつでも雪が降ると聴いた。君は喉が弱い。気管支に気をつけて」
窓の外から、あなたがすがるように私を見上げた。
いつもなら「荷物を持ったせいで腕が痺れた」とか「お前は身勝手だ」だとか、執拗に攻撃しようとするのに、今日に限っては私を気遣う言葉しか言わない。その狡猾さに、私の背中に虫が這うような嫌悪感を覚えた。
汽車が動き始める。
あなたが足を一歩踏み出した。私は思わず身構える。追ってくる? 襲われる! 思わず体をギュッと両手で抱いた。青痣の鈍痛が、私の胃をひっくり返りそうに痙攣させた。
しかし、彼は動かなかった。強く唇を引き絞り、その場を立ち止まっている。
慈愛に満ちた瞳で私を見つめる。柔和な微笑みを浮かべた口の横に、手のラッパ。
「お幸せに!」
あなたが私の展望を願う? ありえない!
私はあなたを信じない。
私はあなたから受けた仕打ちを忘れない。
負けるものか。
私は窓を開けて身を乗り出した。
大きく深呼吸。とびきりの笑顔を顔に貼り付け、あなたに手を振る。
「あなたも!」
あなたの善意の表情がガラガラと崩れる。
冷たいナイフのような瞳が私を刺そうとした。
でも、もう届かない。
汽車は走り出した。あなたから遠ざかる。
私はいつまでも軽やかに手を振り続けた。
テーマ; 幸せに
3/31/2026, 3:04:33 PM