『裏返し』2023.08.22
「おいおい、お前。なにを持ってるんだ」
妖怪の総大将である彼が、驚いたような顔をする。
そして、形の良い眉をひそめて手を差し出した。
「その持ってるもんよこせ」
よこせと言われても、ボクは何も持っていない。
彼はイラついたように、ボクの背中に手を伸ばし何かをひったくた。
その手には、なにか御札のようなものがおさめられていた。
「よくこんなもん持ってて平気だな」
「なにそれ」
その御札のようなものは、彼が息を吹きかけると火がつき一瞬で燃え尽きた。
「知らないで持ってたのか」
「身に覚えないよ」
本当に覚えにない。なんなら、今の今まで気づかなかったのだ。
ボクの様子に、彼はため息をつきながら頭をかいた。
「あれは、裏返しの呪いの札だ」
「裏返し?」
「お前が俺様への嫌味みたいに持ってる、魔よけの効果を真逆にする効果がある。もっと言えば、寄って来やすくなるんだな」
複雑そうな顔をする彼には申し訳ないが、気分が悪くなった。
ボクの家系はそういったものが寄ってきやすい。それらを防ぐために、強い魔よけを持っている。しかし、それが反転するとなると、かなり危ない状態だったということだ。
それを彼は助けてくれた。魔よけがないほうがいいだろうに。
「ありがとう」
「礼なんて言うな、忌々しい。次からもっと用心しろよ」
ふん、と彼は鼻を鳴らして御札を持っていた手を、ボクの法被で拭った。
忌々しいと言いながら助けてくれた彼。そんな態度も、愛情の裏返しなのだろう。
8/22/2023, 11:36:21 AM