子どもが、玄関前にある花壇の隣に立った。花の上でそっと水をすくうように両手を添えている。遠目でも分かる。その子どもは、花の上に住まう虫を手のひらに招待して遊んでいた。生き物を大事そうに持ち上げた子どもの顔には、笑みが花びらのように溢れていた。
数多のたましいと繋いだ手のひらの宇宙を、あの子どもも幼かった私も持っていた。持っていたはずだ。
私の手は、今ではすっかりと手汗さえも干からびた挙句、働けども働けども、110年前の労働者の苦労を未だ引きずって、楽にならぬ現世の生活に飽きれ果て、何もない手のひらをじっと見つめるばかりだ。
私と一緒に繋いだ何かは、砂粒の如く指の間からさらさらと流れ去っていった。せめて、『人』を詩人と定義する弓町まで、手のひら分の砂が届いてほしい。きっとこの先、100年後の手のひらにも、その一握の砂が握られるだろうよ。
(250118 手のひらの宇宙)
1/18/2025, 1:05:18 PM