いしか

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貝殻を拾った。
綺麗な透き通る海の砂浜で。
何となく来たくなって、車を走らせてやってきた海。人は少なく、とても静かで落ち着いている。時間は朝5時。

「もう少ししたら、帰ろう」
今日、用事があるわけではないけれど、居ようと思ったらずっと居続けられてしまいそうだから、取り敢えずもう少ししたら帰ろう。

サアーっサアーっと波音。
耳心地がとても良い。

「綺麗な貝殻ですね」
突然誰かから声をかけられた。
不審者だったらどうしよう…。

「あ、すみません!いきなり声をかけてしまって。俺別にあやしいもんじゃないですからっ!」
彼はそういうとサーフボードを持っている手を私側に近づけ、サーフィンしに来たんです。と言ってきた。

「サーフィン、するんですか?」
「はい。ほぼ毎日。」
「毎日ですか?凄いですね!」
「もう習慣になってしまっていて、やらないほうが気持ち悪いんです」

「あの…、少し、見学させて貰っても良いですか?」
「ええ、いいですよ!好きなだけ見てって下さい」

彼はそういうと海へと向かっていった。
私は人見知り。けれど彼とは何だが普通に喋れた。何だか不思議。
暫く彼のサーフィンを見学させて貰い、帰ろうとした時…、

「あ、あのっ!」
彼から呼び止められた。
「何ですか?」
彼は近くにあった枝を取り、砂浜に何かを書いていく。
「今、スマホもってます?」
「はい、持ってますけど…」
「これ、写真に撮っといて下さい」
私は言われたまま砂浜を写真に撮った。
よく見ると、連絡先だった。

「俺、今スマホ持ってないので、俺の連絡先です」
「何で今日初めて会った私に教えるんですか?危ないですよ、今時」
「平気です。絶対変な事はしない人だ。」

あまりにきっぱり言われたので少し驚いた私。まあ、何もしないけれど、

「俺、今ナンパしてるんですかね?勝手にそう思っただけですけど、また、お会いしたいから……、」

あまりに素直に言われたので拍子抜けしてしまった私。わかりました。連絡先保存しておきますと一言いい、私は帰宅した。

彼と会ってから数日後。朝のニュースを見ていたら彼が出てきた。今大注目のサーファーだという。

私が、彼の連絡先が記された写真を見つめながら連絡したのは昨日。
彼は嬉しそうな文面で返事をくれた。

不思議な出会いに何だが運命を感じそうな自分をいさめながら、私は朝ごはんの準備をする。

取り敢えず、彼にまた会ったら、名前を教えなければ、そう、思いながら…。

9/5/2023, 8:56:39 PM