ありがとう
「ねぇ、もしも最後にありがとうを伝えられる相手がたった一人だったら、誰にありがとうって言う?」
ふと、浮かんだ何気ない質問を投げ掛ければ、君はこう答えた。
「んー、自分かな」
「え、なんで?」
「なんかさ、今までたしかに嫌なことも、悲しいことも、辛いこともあったけどさ。今こうしてここにいるのは、その時その時で自分が選択して、その結果としてここにいるわけじゃん。死なずにこうして生きているのも、自分のおかげかと思ったら、ありがとうって言いたいな、って。そりゃ親とかきょうだいとか、友だちとか恋人とか感謝を伝えたい相手はたくさんいるけどさ、その人たちにはありがとうって伝えてるから。それなのに、生まれてから自分自身に感謝したことってほとんどないなぁ、って。だから、最後は自分にありがとうって伝えたい。生まれてきてくれて、生きてくれて、ありがとうって、私のために色々頑張ってくれてありがとうって。……で、そういうあなたは誰に言いたいんですかー?」
真剣だった表情から少しおどけたものに変わり、こちらに視線が移る。
なんというか、君らしいと言えば、君らしい答えだった。そして、それに納得してしまう自分がいたから、私はこう答えた。
「……自分かなぁ。そんな話聞かされちゃったらねぇ?」
5/3/2023, 1:20:42 PM