「行かないで済むなら何だってしよう」
「本当に?何でも?」
「俺に二言はない」
あまりに堂々と宣言されたので悪戯心が湧いた。
「三回まわって、お手!」
「な、なんだと…」
「何だってするんでしょ?」
「くっ…」
いかにも渋々といった顔でゆっくり3回ターンすると、彼はそっとこちらに手を差し出してきた。
うちのタロウくんは本当にお利口さんだ。
犬語と人間語をほぼ完璧に解析し相互翻訳できるinuPadは、世界で爆発的に普及した。愛犬と会話したいという人類の悲願がついに叶ったのだから当然だ。
日本語は初期から対応言語に含まれていたが、第9世代の最新OSでは方言や性別、役割語の各要素がオプションに追加された。この新機能は発表直後こそ本人(本犬)の人格(犬格)を損ないかねない醜悪な擬人化ではないかと賛否両論だったが、結局今に至るまで大した修正なくサポートされている。
そんなわけで、うちのバセンジー、タロウくんは
【一人称:俺/語尾:~だ、~である/役割:武士】
と設定されたinuPadを首に巻き、毎日私たちと格好良くおしゃべりしてくれる。
「今日は病院には行かないよ」
「かたじけない」
「訪問医の先生が来てくれるからね」
「…主!謀ったな!」
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「行かないで」
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所感:
inuPadが欲しいです。
病院に行きたくない子をなんとか説得したい(こちらが絆されて諦めるほうがありえるかも)です。
10/25/2022, 8:57:59 AM