恋みどり、初恋、よさ恋美人に恋空、花恋の虹。
品種名に「恋」がつく農作物は、意外と多く、
なんなら「秋恋」ならぬ「冬恋」なるリンゴが存在するらしく、とっても甘いそうです。
ということで今回は、お題をもとに、こんなおはなしをご紹介。
最近最近のおはなしです。
都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家には、その週の水曜、10月8日の頃からずっと、
稲荷狐を頼って、伊豆諸島在住の人外が、
複数して、避難してきておりました。
忘れ去られた神社の御神体を背負ってきたり、
足の悪くなった老神使を若い衆が連れてきたり。
台風の猛威が過ぎ去るまで、都内のその神社の宿坊に、避難してきておりました。
なかなか多くの人外が、一気に宿坊に来ましたので、宿坊の調理場は大忙し!
避難人外が持ち寄った旬の伊豆諸島農産物と、
ベストタイミングで雪国出身の参拝者がおすそ分けしてくれた雪国特産品と、
それから宿坊の食料庫をやりくりして、
今日も、美味しい美味しい、伊豆諸島食材と雪国食材をメインにした晩ご飯が、作られました。
ところで避難所を提供しておる稲荷神社のおばあちゃん狐、昔の仕事の縁で、勤めておった職場の勤めておった部署から強引に人間の後輩を召喚。
【ピー】匹と【ピー】人、合計【ピー】分のごはんを作らせて、タダ働きとした模様。
後輩づかいが荒いのです。
酷いよな。 酷いですよね。
おばあちゃん狐大先輩OGに問答無用で召喚されてきた後輩2名は、大鍋振って火力を出して、大きな木べらでグツグツ、じゃんじゃん!
2時間ほど、ぶっ続けで肉体労働をして、
なんならその前から【ピー】時間の掃除と奉仕もさせられたので、へっとへと。
1時間程度の休み時間を貰ったので、
稲荷神社近くに店を出す大古蛇のおでん屋台で、お酒を貰っておでんも選んで、
しみじみ、休憩することにしました。
「そうかい。そりゃ、お疲れ様だったね」
おでん屋台の店主のおやじさん、稲荷神社のおばあちゃん狐のことはよく知っています。
後輩づかいが荒いのも、よくよく承知です。
「ほら、ちょっと奢ってやるから、元気出しな」
おでん屋台には後輩の2名と、それからもうひとり。なんだかコップをカラカラ鳴らしておでんをつまんで、たそがれておる様子でした。
「おまえ、たしか最近法務部に来た……奇遇だな」
「あっ、 どうも」
はい、今日のお給料。
おでん屋台の店主さん、味しみ大根に緑色のとうがらしを細切りにして、パラパラ。
それからひき肉のあんかけをして、重労働してきた2人に出してやりました。
「秋恋こしょう、って名前の在来とうがらしだよ」
面白いだろう。おやじさん、言いました。
「とうがらしなのに、こしょうって言うんだ。
甘さもあるし、辛さはちょいと控えめ。美味いよ」
天ぷらが食いたかったら200円、肉詰めチーズ揚げが食いたかったら300円だよ。
おやじさんはニヨニヨ、笑って言いました。
「コショウも、トウガラシの仲間なのか?」
「親戚ですらないよ。名前が名前なだけさ」
「何故だ?」
「しらんよ。ネットにでも聞きな」
「そうか」
秋恋こしょうの細切りを、ひき肉あんかけと一緒にぱりぽり、2人のうちの1人が食べました。
それは、赤いトウガラシとは少し違って、たしかに少し甘さがあるように感じました。
「ふむ」
2人のうちの1人、今度は秋恋こしょうの細きりと、大根を一緒に食べてみました。
「美味い」
醤油ベースの大根と、控えめな秋恋こしょうトウガラシの味は、なかなか、よく合っていました。
「秋恋トウガラシ?」
「秋恋こしょうだよ」
「天ぷらと、何だって?」
「肉詰め。セットでそうさな、400円」
「2セット」
「あいよ」
パチパチパチ、ぱちぱち。
おでん屋台に油の音が、静かに響きます。
「秋恋。 あきこいか」
緑色のとうがらしを気に入ったその人は、肉詰めと天ぷらをサクサク、もぐもぐ。
最終的に肉詰めが気に入ったらしく、
お夜食用として10個、お持ち帰りしたとさ。
秋恋の名がついたトウガラシのおはなしでした。
おしまい、おしまい。
10/10/2025, 7:42:42 AM