今日、街へ行くことにした。
何年ぶりだろうか。
何度も行きたいと思っていたけれど、どうしても体が動かなかった。
前に街に行った時の記憶が、私を臆病にさせた。
だけどいつまでも家に閉じこもったも仕方がない。
私は勇気を出し、再び街へ行くことにした。
街に向かいながら前回のことを思い出す。
数年前のことながら、今でも鮮明に思いだせる。
ずっと頭から離れなかったあの光景。
あの日私は町をぶらついていた。
特に理由は無い。
なんとなくだ。
だけど街に着くと、私に気づいた人達がキャーキャー歓声を上げ始めた。
私は突然の事に戸惑い――
いや、正直に言うと気分がよかった。
だってあんなに注目されることなんて、生まれて初めての事だから。
だから調子に乗った。
みんなから見えるように、大きな道を歩いたり、たまに歓声に応えたりした。
そうすれば、みんな喜んでくれたからだ。
たまらなく気分がよかった。
それがいけなかったのだろう。
私が注目を浴びることを気に入らない人たち――いわゆるアンチがいることに気が付かなかった。
そのまま私は調子に乗って街を歩いていると、ふと周りに人がいないことに気が付いた。
周りを見渡しても誰もいない。
歓声どころか、物音一つしない。
まるで最初から誰もいなかったかののように……
何が起こったのかわからず、恐怖に支配される。
その時だった。
何かが体にぶつけられた。
アンチは私に暴力を振るってきたのだ。
誓って私は何もしていない。
でもアンチには関係が無かったのだろう。
見えない所から、何かを何度もぶつけられた。
私は抵抗をしたが、それでも暴力は止まず、泣きながら家に帰ったのだ。
今思い出しただけでも、身震いがしてくる。
でも私は決めたのだ。
アンチたちと対決すると。
ベストな方法じゃないことは分かっている。
でも悪いことをしていないのに、やられっ放しなのは許せない。
私が街に姿を現すと、みんなが私に注目しているのが分かる。
だけど突然のことで驚いたのか、私を見て固まっていた。
歓迎の声が無いのはちょっとだけ残念だ。
だけど気にしない。
だって今回の目的はそうじゃないから。
こうしていれば、またアンチが姿を現すだろう。
それまでは、この光景を楽しむことにしよう。
みんなが私を《見上げる》光景は何物にも代えがたい。
私はこの光景を守るために戦うんだ。
私の決意を感じ取ってくれたのか、一人の女性が私を歓迎する声をあげてくれた。
「キャー。怪獣よー」
1/29/2024, 9:55:08 AM