冷瑞葵

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ゆずの香り

 昨晩は数日早く枕元に靴下を準備した。夜が一年で最も長くなるこの日。
 最も短い朝が始まる頃には、靴下の中に2つのプレゼントが入っている。最新のゲーム機とゲームソフトだ。
「冬司、起きなさい!」
 冬司と呼ばれた少年は今日一番のやる気を振り絞って布団から這い出た。フローリングの床が冷たくて、バレエのようにつま先立ちでリビングに向かう。
「誕生日おめでとう!」
 少年は赤と緑でデコレーションが施されたリビングで出迎えられる。冬至と全く同じ音の名前をした彼は、名前の通り冬至の日に生まれた。クリスマスとまとめて祝われてしまうけれど、彼はこの日が嫌いではなかった。
 早速貰いたてのゲームで遊ぶ。時間はあっという間に溶けていき、すぐにご飯の時間だ。昼は大好きなハンバーグで、おやつにはいちごの乗ったショートケーキ、夜にはチキンとローストビーフと白ブドウの炭酸ジュース。楽しい事尽くしの一日だ。
 そしてこの一日の締めとなるのがゆずの香りである。
 この香りがしてくると一日が終わってしまうと感じて物悲しくなる。冬司はしぶしぶゲームを切り上げてお風呂に向かう。山吹色の真ん丸いゆずが3つ浮かんだ今日限定の湯船が迎えてくれる。
 お風呂から出ると、盛り沢山の一日はすぐに終わる。
 冬司は少しでも長く「今日」を楽しもうと、ゲームを布団の中に持ち込んで、ゆずの残り香の中で母親に怒られるまで長い夜を謳歌するのだった。

12/23/2024, 8:29:26 AM