『神様はこう言った』 No.104
もうじきあなたはこちらへくるでしょう。
しかし、やり残したことはないのですか?
…はぁ、全くですか?
…そう、ですか……
車にはねられ、幻聴が耳に響いているようだった。
辺りが急に光につつまれ、光の中でも特に濃い光を放つ人影が、こう言った。
やり残したこと?そんなもの、ない。
むしろ引かれてラッキーだ。
死ぬべき人間は俺だ。死ぬ勇気をくれてありがてえ。
やがて光がぷつりとみえなくなり、とたんにものすごい眠気が瞼を誘った。もう、おわりか…
ざわめく観衆の声が遠くなり、視界が真っ暗になっていった。
あの時、俺が彼女を守っていたら─
やり残したことといえば、それくらいだ。
彼女は同じく交通事故で死んだ。
二人で映画から帰り、彼女と横断歩道で解散したすぐ後だったのに。あの時、ちょっと彼女との話を延ばしていたら…
でも、いいんだ。
これで同じ所に逝ける。
それでも神様はこう言った。
…そう、ですか……
別になにかあったのだろうか。
もう、いい。
いいんだ。
7/27/2023, 11:03:49 AM