杙里 みやで

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「失われた時間」

母が認知症を患った。
高校の時辺りから「忘れやすいな」とは思い始めていたけれど、特にその時は問題もなく、そのまま大学に上がり一人暮らしし始めた時に医者から呼び出されるとは思ってもみなかった。

「あなたのお母さんは重度の認知症の可能性があります。」
駆けつけた病院で医者に言われた言葉。
「もしかしたら息子さんである貴方自身のことも忘れている可能性があります。」
続け様に言われた。


高校の時俺が弁当を忘れた時に、電車を何本も乗り継いで高校まで届けに来てくれた母

部活の県大会出場が決まった時に県大会の詳細日時まで調べて応援しに来てくれた母

そんな母が認知症で俺を忘れる可能性がある?
俺は信じられなかった、
受け入れることが出来なかった。

「母さん!!!」
医者に母のいる病室を教えてもらい、駆けつける
病室の番号を確認し、不安な心を落ち着かせ、
ゆっくりと扉を開けた。
「失礼します」
俺が目にした光景は病室のベットで体を起こして静かに読書をしている母の姿。
「母さん、元気?」
俺は震えた声で聞いた
「どちら様でしょうか。」
母が読書していた手を止め、こちらに顔を向けてくる
まるで俺の事など知らないかと言うような言葉遣いに声色。

この瞬間母との思い出が一瞬にしてカラーからモノクロにうつり変わった様な気がして、俺は病室にも関わらず大泣きをしてしまった。

5/13/2024, 2:40:56 PM