たなか。

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【1年前】

1年前の今日。私は彼に告白をした。結果はあっけなく振られてしまったけれどここで会ったのならば私の空気に飲まれて欲しい。
「君が好きだと言っている。」
「断ったはずですよ。」
シナリオ通りに進む劇。私はこの歳下のエースに惚れている。小学校が同じで一度引っ越してしまったけど高校でまた会えたんだ。ここは演劇部。私が王子で君が姫。あべこべで可笑しくて楽しげな世界。君はどれだけ飲まれてくれる?
「僕は貴方の姫にはならないですよ。」
「守られるのは嫌いなんだ。」
「大人しく、守られて。」
手で目を覆い仮面をつけた私の姫は静かに私を抱き寄せる。私は本当は王子の役をするはずだった。こいつがいるから私は姫になる。王子の次の見せ場役。姫をするなんて柄じゃない。昔から演劇が好きでよく姫とごっこ遊びをしていたけれど私はずっと王子だった。あべこべで可笑しい。
「私は姫なんかじゃない。」
「いや、立派なお姫様だ。大人しく僕の瞳に吸われて惚れて守られて。」
どこまでが演技? いや、どこまでも演技。これだけは本当
「君を姫にしてみせる。」
「必死に足掻いて下さいね。僕の王子様。」
これは私が姫にならないための勝負かもしれない。

6/16/2023, 2:48:35 PM