作家志望の高校生

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暖かな日差しが差し込む屋上で、俺は何をする訳でもなく寝そべっている。本来、今は授業中。つまりサボりである。こんなに暖かい外がいけない、なんて責任転嫁しながら、俺はひたすらに惰眠を謳歌していた。一人だけのだだっ広い空間というのは案外落ち着くもので、田舎特有のキジバトの鳴き声をBGMに俺は眠りに就こうとしていた。
そんな心地よい静寂を切り裂く者が1名、屋上へ飛び込んできた。勢いよく開け放たれたドアに驚いて体を起こした俺と、彼の目が合う。数秒の沈黙の後、彼が口を開いた。
「……ここで猫見なかった?」
「は?」
思わず冷たい返事が出てしまった。だって、意味が分からない。とりあえず、猫は見なかったことを伝えた。彼はしばらくがっかりした様子だったが、数分もすれば持ち直したようだ。無遠慮に俺の横に座って、返事もしない俺にひたすら話しかけてくる。コイツから逃げたであろう猫の気分がよくわかった。キャンキャンとよく吠える子犬みたいな奴だ。無愛想で話下手、オマケに不良と恐れられる俺に、ここまでズカズカと近付いてきたのはコイツが初めてだ。ふと、遠くから誰かの怒鳴り声が聞こえる
「……お前、もしかしてここ来るまでに先生に見つかった?」
俺がそう聞くと、彼は全く悪びれもせずに頷く。つまり、この怒鳴り声は先生のものだろう。今は授業中で、ここは本来立ち入り禁止の屋上。ダブルアウトだ。どうするか、隠れる?そんなことを考えていたら、突然手首を掴まれた。
「よし、逃げよう!」
待て、なんて言う間もなく俺は彼に引っ張られ、屋上へ繋がる階段を飛び降りるように駆け下る。そのまま校内を走り回りながら、物思いに耽っていた。素行不良に頭一つ飛び抜けた身長、そのせいで怖がられ、俺の周りにはいつも人が居なかった。そんな俺の手を、コイツは迷わず取りやがった。そう思うと、破かれた屋上の立ち入り禁止の張り紙も、背後から聞こえる先生の怒鳴り声も、手首に伝わる子ども体温も、全てが喜劇のように見えてきて。
もう一階下ろうと階段を何段も飛ばして駆け下りながら、気付いたら大笑いして彼の手を掴み返していた。

テーマ:君と飛び立つ

8/21/2025, 2:07:06 PM