職業柄夏でもきっちり着込んでいることの多い彼が、家ではラフな装いでのんびり過ごしているのを見ると和むものがある。しかし、そのシャツは一体何だろう。言葉にし難い抽象的な、眼球のようにも見えるものが無数にプリントされている。文句があるわけではないが、さっきからずっとそれらと目が合っていてどうにも気になる。聞くと、それは人からもらったお土産らしい。しかも十年近く前というのだから多分、相応に気に入っている。自分の様子に何かを察したのか、ぼそりと「駄目か」と問い返された。その声が少し萎れていたから思わず、そんなことはない、と否定してしまった。この一夏、あるいはその先もこのシャツとはお付き合いがあるだろう。お手柔らかにお願いします、と描かれたそれらにこっそり挨拶をした。
(題:半袖)
5/29/2024, 7:32:10 AM