Eiraku

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Moonlight

月明かりは二人を明るく照らす。
守られなかった女と守れなかった男。心のうちのどこかが欠けていた男女は、肩を並べて月を見た。そばには三色団子が三本ピラミッド型に積み重なっている。女は澄んだ冷たい空気を吸った。
___先生、今日は…

「今日は月が明るいですねぇ。」
紀久代はハッと横を見た。そこには、町で櫛屋を営む家族の一人息子がいた。白玉を頬張って月を見ている。
「そう思いません?紀久代さん。」
「…」
一人息子は女に問いかけたが、返答はない。不思議そうに目を丸め、また木のスプーンで一つ白玉を頬張った。
女は上の空のように月を見上げた。それは半月だった。
「きれい。」
気づけば女はそのように口にしていた。一人息子は驚いたようにスプーンに乗せた白玉を「つるん」と器に落とした。それを気にすることなく、女のそばに体を乗り出して、
「ですよね!キレイですよね!」
月よりも輝いてしまうような笑顔に、女は眉を下げて笑った。
「うん。キレイだよ。」
女は瞳に、また半月を映す。半分は光、半分は影。女は、その影の中に何かがいないかと目を凝らした。見えるわけない、いるわけない、もういないと分かっていながらも。
「あの時はね、満月だったんだよ。」
「…あのとき?」
「そ、あのとき。」
んー?と顎に手を添える一人息子を横目に、紀久代は笑った。
「また見せてくださいね。先生。」
肩を並べた二人は笑った。



10/5/2025, 11:14:43 AM