いろ

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【何でもないフリ】

 君のいる喫茶店が、嫌いだ。蓄音機から奏でられるクラシック音楽は静かすぎて眠たくなるし、暗い室内は鬱陶しくて早く外の青空が見たくなる。挙げ句の果てに産地がどうのと君がこだわるコーヒーは、どれを飲んだって苦いばかりで美味しくなんてない。だけどそんなことを口にしたら「じゃあわざわざ来なければ良いのに」と呆れられるから、僕はいつも無言でコーヒーカップを傾けて、舌の上に広がる苦味を呑み下す。
 毎週土曜日になるたびに、クラシックの荘厳さも、落ち着いた店内も、コーヒーの苦味と酸味も、全部理解してる素敵な大人ですよって顔をして、僕は君の築いた君の大好きなものに囲まれた城へと入り浸るのだ。
「いらっしゃいませ」
 そう微笑んでくれる君の笑顔が見たいから。今日も僕は、何でもないフリで嘘をつく。

12/12/2023, 3:25:27 AM