22世紀になる現代において、珍しく我が家の水道は透明な水を垂れ流す。
このことを誰かに自慢したことはなく、私だけの秘密として心のどこかに閉まっている。前提として、自慢する相手がいないなんてオチはない。友人はいる。二名。
今まさに、そのうちのひとりに透明な水を自慢しようと蛇口に手をかけたところだった。
「早く見せてくれよ。どうせ嘘だろうけどさ」
「ああ、今からひねるよ」
私は蛇口を捻った。
すると、どろどろと濁りきった水が流れ出す。
何故だ?
「おかしいな。いつもは透明な水が出るのに」
「ははは。やっぱりな。期待して損したよ」
そう言って、友達は私の肩に馴れ馴れしく手を置いてくる。友達ごときが私の肩に触れるな。
「でもさ。久しぶりにお前に会えて嬉しかったよ。飯でも食おうぜ」
「てめぇの奢りなら考えるよ」
「ははは。お前ってそんな感じだったけ。そういうところも嫌いじゃないけどな」
この友達とは10年以上の付き合いだが。
こんな性格のいいやつだったか?
ふと、垂れ流しだった水を見ると、黒く染まるほどに濁りきっていた。
透明な水が安全なんて保証は、22世紀には存在しないのかもしれない。
〜透明な水〜
5/22/2023, 3:42:42 AM