「全員!動くなッ!!!」
喉の奥から吐き出されたような怒号が辺りに響き渡る。
それは蒸し暑い昼下がりに起きた。
橋の上での誘拐人質事件…
周りに野次馬が集まる中、俺は犯人である安沢を追い詰めた。
しかし、人質をひと目見た途端、心臓を銃口で当てられたように時が止まる。
「…ゆ、ゆい」
「と、とおさん」
…立花 唯…
俺の実の娘だ。
七年前に離婚した後、母親とともに出ていった娘だ。
警察の仕事一筋で家族のことに時間を費やすことをしなかった結果、妻と娘に呆れられてしまったのだ。しかし、大学生になる唯のために学費を払うこととなり、一年前、一度会ったことがある。
と、とにかく娘を助け出さなければ…
犯人に目をやると
「おい…お前の目的は何だ?」
「目的?てめぇ、俺の顔に見覚えないのか!!!」
顔?その言葉を聞いて、俺は思い出した。
こいつは、鈴木慶一
六年前に連続殺人で捕まえた男だ。
「お、おまえは、…鈴木…慶一」
「そうだ!お前にボコボコにされて、しょっぴかれた。刑務所でも、あのときの痛みを忘れたことはなかったぜ。」
「その子は関係ない!!!おれを狙えばいいだろ!」
「それは違うな…俺はお前が苦しむ姿が見たいんだよ。」
薄気味悪い鈴木の目がこちらを睨みつける。
最悪だ…こいつは最初から娘を狙っていたのか…
「お前の前で娘が死ぬ姿を見せてやるぜ!」
「やめろおおおお!!!!!」
俺は手元の鏡を反射させ、鈴木の目を一時的に失わせた。ナイフが唯の首筋をかき切るより早く、俺は全力で飛びかかる。左手でナイフを鷲掴みにして、右手で唯を突き放す。左手から血吹雪がでるが関係ない。そのまま、鈴木を羽根締めにして橋の手すりを越えてしまう。
「と、とおさん!!!!」
涙目の唯を尻目に俺と鈴木はそのまま十メートルほど下の川へ落下した。前日が雨だったため、川は増水していた。体のあちこちを石や瓦礫にぶつけ、痛みが感じなくなりつつある。
俺はこのまま死ぬのか…
だが、悔いはない。
娘が大学生になり、最後の最後に父さんと読んでくれた。一緒に暮らしていた頃は録に話すこともなく、一年前に会ったときも近況報告程度であった。
父さんと読んでくれたのはいつぶりだったけ…
最後の最後に娘が向けてくれた眼差しが走馬灯のように巡っている。
母さんに似て美人に育ったな
この仕事してなきゃ、幸せな家庭を気づけたのだろうか。そんな思いを秘めつつ、俺の意識は遠のいていった。
3/10/2024, 1:39:05 PM