ポポウの躯体の様子を診ていたチチュンの頭の上に疑問符が浮かぶ。
ポポウの膝関節球の摩耗率がここ数日で明らかに大きいのだが、理由がわからない。
あくまで自分との比較でしかないけども、とおもう。
同期しても普段通りに過ごしているし、踏破距離も大差ない、という情報しかなく、荒野を流離っている-砂塵が入りやすい-ということはチチュンも同じなので、ポポウの損耗の方が早いことは、今後の旅に対して憂慮かつ早急に解決すべき問題といえた。
考えたくはないが、何か隠していることがあるのではないか?と考えざるを得ない。
「ねえ?ポポウ」チチュンは目の前に腰掛けるチチュンに問いかける。
「僕に…」隠していることはない?という言葉を飲み込み、メモリからすぐに削除した。
「君がメモリを閉じてしまうと、わからないんだ」
当然だが返事はない。
ポポウの膝に視線を落とし、優しく撫でる。
「君のことだから、何か理由があるんだろうね」
チチュンは白んできた地平線を見遣る。
「ああ、もう夜明けだ。もう戻るよ。良ければ理由を思い浮かべて欲しい。おやすみ。また明日。愛してる」
言うや否や、チチュンは後ろに背負っていた金属製の直方体の筐に、カチャカチャいいながら納まった。
チチュンが、一つの筺になった直後、ポポウと呼ばれていた躯体の瞼がゆっくりと開き、奥に隠れていた深緑色の瞳が朝日を反射して煌いた。
「愛しいチチュン。君の声は聞こえていたけど…君の関節ままだともう歩けないんだ」
ポポウは哀しそうな声で、無表情に呟いた。
「ほんとは全て共有しなければいけない事は解ってる。でも、君はそれを認知出来ていないんだ」
「本当は放棄街や、器械族に会えると良いんだけど、そう上手くはいかないみたい」疲れた口調で「ともかく、行けるところまで行ってみよう」
ポポウは立ち上がって、チチュン筐に背を向ける。
そうしていつものように自分の背中の筺若干緩め、そのまましゃがんだ。膝がキシキシと音を立てる。
チチュン筐に自身の筐が覆い被さることを認識すると、背中の筐を締めて再び立ち上がった。
メモリを削除することも忘れない。
「さ、行こうか」
器械族の〝蟻塚〟に二人が拾われたのは、それから3回目のポポウの日だった。
1/14/2024, 2:28:14 PM